静岡刑務所 堀の中の運動会~頬をつたう熱い涙のわけ~

10年ほど前から静岡刑務所にて講師の仕事をさせて頂いている。
3年ぶりに開催された運動会にお邪魔。
今年も知らないうちに、頬をつたう熱いものが…。泣けるんです。

炊事班、清掃班などのチーム毎になり、
それぞれの競技の総得点数を競って優勝を決める。
この日のために、行進や整列の仕方、模擬競技など
何度も何度も練習をし、本番をむかえたに違いない。

いざ、本番。
それぞれの競技においての声援がすごい!
リレーをすれば、自分のチームが一位でゴールをすると大歓声と大拍手。
それに応えるかの如く、選手も喜び、そして悔しがり、
玉入れも、リレーも、宅急便競争も、必死に、一生懸命なのが分かる。

20代の方から80代まで(介護をされている方も、している方もいる)
それはそれは幅広い方たちによる塀の中の運動会は、
運動が得意な方もいれば、そうじゃない方もいる。
おそらく学生時代は陸上部だったんじゃないかと思うほど綺麗なフォームでぶっちぎり一位の方、
三歩走れば転んでしまう方、
みんなが、みんなに、声援を送る。
転んでも、「頑張れー」って声を届け、
転んでも、「応援を背に」必死に起き上がって最後まで精一杯走る。

最近は、施設内の工事のため、時間短縮の理由からなくなってしまったが、
ハンカチ無しで見られないのが、応援合戦。

「 日々、一生懸命生活をしーーーーぃ、
一日でも早くーーぅ、俺たちのオヤジを安心させるーーーぅ!」

顔を真っ赤にしわくちゃにしながら、喉がはちきれんばかりに出すその声は、
太い手綱のようにどっしりとした存在感と熱いエネルギーを持ち、
からっと晴れた秋の空に響く。

ここでの「オヤジ」とは、教官のこと。
ちょっと離れたところから見守っている教官を見ると
ピンと背筋を伸ばし、敬礼している。

日々、大変なご苦労もあることでしょう。
規律正しく厳しく指導している受刑者たちからの「おやじへの宣誓」
どんな気持ちだろうか…。
敬礼をしながら、微動だにせず受刑者を見る真剣な目に、こっちの目頭が熱くなる。

「刑務所は社会の縮図」
とはよく言ったもので、
今の時代に読み書きが出来ない方や
ドイツでそドクター10年やってました、
など様々な背景を持つ人たちがいる。

スポーツマンも、医者も、流しの演歌歌手も、介護される方も、介護する方も
みんなが同じ方向を見て、自分が出来ることを精一杯動く。
出来ても、出来なくても、かっこよくても、かっこ悪くても、
人が人を応援する。

無論、常に課題は山積。
特に出所後の処遇など、見えないところでの問題は根深く、
無知の素人が無神経に立ち入れるところではない。
運動会が開催出来るのも、教官たちの緊張と鍛錬された指導力あってのこと。

 

人と接しないで、生きていくことは出来ない。
仕事も家庭も、地域も、繋がりあって歩んでいく。

例えば「会社」という場。
同僚を心から応援しているか?
部下に心からの助言をしているか?

上も下も、弱いも強いも、地位も権力も無い
刑務所は、同じ境遇の中同じ気持ちで生きる人と人。

人間としての美しさはここにあった。

秋の空に、玉入れの赤い玉が
なんとも美しい
堀の中の運動会。

 

2023.10.19

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